雨は君に降り注ぐ

 一ノ瀬先輩は、瑞葵さんのなくなった原因が、自分にあると考えていた。

『僕のせいです。僕のせいで瑞葵を、涼介さんの、大切な妹を…。』

 あの日、夏祭りの夜、自分が待ち合わせ場所に行っていたら、瑞葵さんが命を落とすことはなかったかもしれない。

『それは仕方ないよ。一ノ瀬も、お母さんのことがあったんだし…。』

 涼介先輩は、そうなだめた。
 しかし、一ノ瀬先輩は納得しなかった。

『いえ、自分のせいです。』

 瑞葵さんが亡くなったのは、僕のせい。

 僕があの夜、待ち合わせの鳥居の前まで行っていれば。
 僕が、デートの誘いに乗らなければ。
 そもそも、僕と瑞葵が付き合ってさえいなければ。

 何か1つでも、少しでも違っていたら、もしかしたら、もしかしたら瑞葵は、
 死なずにすんだのかもしれない。

 一ノ瀬先輩は、そうやって自分を責めた。
 瑞葵さんの死も、母親の死も、全部自分のせいだと言って、責め続けた。

 当然のように、彼は精神を病んでいった。

 痩せ細り、顔はいつも真っ青で、暗いオーラをまとうようになった。

 同じ日の夜に、愛する人を2人失ってしまった。
 その変えようのない事実は、彼の人生を壊そうとしていた。

 一ノ瀬先輩は、人と関わることを恐れ、常に1人で行動するようになった。

『僕と関わると、そのせいで、また誰かが死んでしまうかもしれないから。』

 そう寂しそうに笑う一ノ瀬先輩に、涼介先輩は何も言うことができなかったという。

 翌年、雪立高校を卒業した涼介先輩は、青葉大学に進学した。
 一ノ瀬先輩も青葉大学に進学したということを知ったのは、だいぶ後になってからだったそう。

 その進学をきっかけに、涼介先輩と一ノ瀬先輩の間には距離ができ始め、

「そして今に至る。ざっと、こんな感じかな。」

 涼介先輩は、ふぅっと息をつくと、私の目を見て微笑んだ。
< 219 / 232 >

この作品をシェア

pagetop