雨は君に降り注ぐ
一ノ瀬先輩は、瑞葵さんのなくなった原因が、自分にあると考えていた。
『僕のせいです。僕のせいで瑞葵を、涼介さんの、大切な妹を…。』
あの日、夏祭りの夜、自分が待ち合わせ場所に行っていたら、瑞葵さんが命を落とすことはなかったかもしれない。
『それは仕方ないよ。一ノ瀬も、お母さんのことがあったんだし…。』
涼介先輩は、そうなだめた。
しかし、一ノ瀬先輩は納得しなかった。
『いえ、自分のせいです。』
瑞葵さんが亡くなったのは、僕のせい。
僕があの夜、待ち合わせの鳥居の前まで行っていれば。
僕が、デートの誘いに乗らなければ。
そもそも、僕と瑞葵が付き合ってさえいなければ。
何か1つでも、少しでも違っていたら、もしかしたら、もしかしたら瑞葵は、
死なずにすんだのかもしれない。
一ノ瀬先輩は、そうやって自分を責めた。
瑞葵さんの死も、母親の死も、全部自分のせいだと言って、責め続けた。
当然のように、彼は精神を病んでいった。
痩せ細り、顔はいつも真っ青で、暗いオーラをまとうようになった。
同じ日の夜に、愛する人を2人失ってしまった。
その変えようのない事実は、彼の人生を壊そうとしていた。
一ノ瀬先輩は、人と関わることを恐れ、常に1人で行動するようになった。
『僕と関わると、そのせいで、また誰かが死んでしまうかもしれないから。』
そう寂しそうに笑う一ノ瀬先輩に、涼介先輩は何も言うことができなかったという。
翌年、雪立高校を卒業した涼介先輩は、青葉大学に進学した。
一ノ瀬先輩も青葉大学に進学したということを知ったのは、だいぶ後になってからだったそう。
その進学をきっかけに、涼介先輩と一ノ瀬先輩の間には距離ができ始め、
「そして今に至る。ざっと、こんな感じかな。」
涼介先輩は、ふぅっと息をつくと、私の目を見て微笑んだ。