雨は君に降り注ぐ
彼は、私の顔を覗き込むように、自分の顔を近づけてきた。
え、何…?
私の視界に、雨に濡れた整った顔が映る。
いつの間にか雨はやんでいる。
彼の顔は、もう、今にでもキスしてしまいそうな距離まで近づいてきていた。
彼の手が、私の顔に触れる。
「っ…。」
彼は、私の顔から手を放す。
「泥が…。」
「え…?」
見ると、彼の指先に泥がついている。
私の顔の泥を、拭ってくれたんだ…。
「ごめんね。」
「はい?」
「君をあいつから引き離さなくっちゃって思ったから、肝心の君のことを考えないで走っちゃった。手首も強く握っちゃったし。…足、痛くないか?」
ああ。
この人、優しいんだな…。
「いえ、全然大丈夫です。すっごく助かりました。あの時私パニックになってて、足が動かなくって、あのまま動けないままでいたらどうなっていたか…。本当に、ありがとうございました。」
そう言うと、彼は少し微笑んだ。
「うん。じゃあ僕はここで。警察にちゃんと連絡するんだよ。」
「はい。」
彼を見送ってから、私は自室に入ってしっかりと鍵を閉めた。
『警察にちゃんと連絡するんだよ。』
そう。
私は、警察に連絡しなければならない。
親にこのことを知らせなければならない。
そう考えると、やはり気が重くなる。
とりあえず、お風呂にでも入ろう。
そうして気持ちを落ち着けたら、警察に連絡しよう。
それにしても、彼のあの微笑み、本当にハンサムで、
…
……ハンサム?
「あ。」
その時になってやっと、私は彼のことを思い出した。