雨は君に降り注ぐ
「じゃあ、今から覚えてください。」
「え?」
彼はさらに困惑したかのように、首をかしげた。
「いいから、覚えてください。私、青葉大学1年の吉岡と言います。青葉西、2丁目にある、3階建てのアパートで1人暮らしをしています。」
「青葉西………あ。」
彼は、驚いたように目を見開いた。
やっと思い出したか。
「君、昨日の…?」
「昨日はありがとうございました。やっぱり、この大学の方だったんですね。」
「…僕のこと、知ってるの?」
やはり、そのことも覚えていないか…。
「先週、私のスマホを拾ってくれましたよね?」
彼はしばらく考え込んだ後、思い出したのか、手を1回叩いた。
「ああ、あれも君だったんだ!」
そう言うと、彼は無邪気に微笑んだ。
「そうか、君、この大学の子だったんだ。」
さっき私が言ったようなセリフを言っている。
なんか、かわいい。
「警察には連絡した?」
「あ、はい。」
とっさに嘘をついてしまった。
慌てて本当のことを言おうと思ったが、もう遅かった。
「そっか。よかった。」
彼は、安心したように、白い歯をのぞかせて微笑んでいる。
今さら撤回など、できない。