雨は君に降り注ぐ
「あの、私、1年の吉岡と言います。」
「うん、さっきも聞いた。」
「これは、さりげなく、名前を聞いているんです。」
「え、そうなの?僕の?」
私がうなずくと、彼は本気で驚いたような顔をした。
……天然なんだろうか。
「それで、私、1年の吉岡と言います。」
「うん。僕は3年の一ノ瀬。」
「一ノ瀬……先輩。」
やっぱり先輩だったんだ。
ちゃんと敬語を使っておいてよかった…。
「今度はちゃんと覚えていてくださいね、私のこと。」
「ん。覚えておくよ。」
彼、一ノ瀬先輩は、優しく笑った。
ここで、タイミングよく、始業を知らせるチャイムが鳴る。
「では、一ノ瀬先輩、またどこかで会いましょう。」
「そうだね。」
一ノ瀬先輩の柔らかい笑顔に見送られて、私は、理子の向かう教室へと向かった。
この時、私は気づいていなかった。
私を見送る一ノ瀬先輩の笑顔が、胸が締め付けられるほど、
寂しそうだったということに。