雨は君に降り注ぐ
「結希、さっきはどこ行ってたの?」
講義が終わり、体育館へ向かう途中、理子が訊ねてきた。
さっきとは、朝の話だろう。
あの時は、一ノ瀬先輩を見失うまいと必死になっていたから、理子に詳しいことを何も言わず、その場を離れてしまった。
当然、理子も困惑したことだろう。
「さっきは、えーっと…。」
一ノ瀬先輩を追いかけて行った。
当然冷やかされるだろうが、別に、そう言ってもいいのではないか。
しかし、一ノ瀬先輩のことを話すのであれば、当然、昨晩の一件についても説明しなければならなくなる。
理子には、ストーカーのことは知られたくない。
そう考えたのは、理子を信用していないから、という理由ではない。
理子に、心配をかけたくないのだ。
ストーカーのことを離せば、優しすぎる理子は、きっと、私のことを心配してくれるだろう。
これは、決して自意識過剰ではない。
理子は、そういう子なのだ。
でも、私は、理子に心配をかけさせたくはない。
優しい理子に、私なんかの問題で、心配をかけさせるわけにはいかない。
だから、私は黙っていることにした。
「ヒミツかなー。」
「え~何それ~、めっちゃ気になるじゃん!」
「でもヒミツー!」
ひとしきり笑い合った後、理子はふっと微笑んだ。
「でもよかった。結希、元に戻ったみたいね。」
「…え?」
「ほら、結希、朝、元気なかったじゃん?だから、ちょっと心配だったんだけど、まあ大丈夫そうでよかったよ。」
「理子……。」
この子は、本当に……。
理子の言葉に、胸が熱くなった。
私は、なんていい友達を持ったんだろう。
理子。
ごめんね。
本当のことを言えなくて。
でも、私は大丈夫だよ。
ありがとう………。