雨は君に降り注ぐ
斎藤先輩と理子がロッカー室のほうへ向かうのを見届けてから、工藤先輩は私に話しかけた。
「吉岡さん…だよね?改めて、2年の工藤です、よろしく。」
「工藤…先輩。」
工藤先輩は、なぜか、嬉しそうに笑った。
「先輩だなんて、そんなかたくならなくていいよ。俺、先輩って呼ばれるの、慣れてないし…。」
彼は、右手で首の後ろを押さえた。
きっと、照れた時の、彼のクセなんだろう。
「じゃあ、こうしよう。えっと、吉岡さんの名前って…、」
「結希です。吉岡結希。」
「じゃあ俺は、吉岡さんのこと、結希ちゃんって呼ぶから、吉岡さんも俺のこと、颯真くんって呼んでよ。」
「えっ…。」
さすがにそれには、少しためらいがあった。
今日初めて会ったばかりの男の子を、しかも年上の人を、そんなになれなれしく呼んでいいものだろうか。
少し考えてから、私は答えた。
「工藤くん……でもいいでしょうか。」
彼は、少しびっくりしたように、目を見開いた。
が、それも一瞬で、すぐにあの爽やかな笑みを浮かべた。
「うん、いいよ。じゃ、よろしく、結希ちゃん。」
あ、そこは結希ちゃんなんだ……。
この人……工藤くんは、人なつっこい人なんだろうな。