雨は君に降り注ぐ
「僕の母親が、一ノ瀬の母親と仲が良くって、一ノ瀬の母親が亡くなった頃、彼のことを支えてあげたりしてたんだ。それで、僕も、一ノ瀬と関わることが多くなったんだけど、大学に入ってからは、さっぱりだな。」
「今は、あまり関わりがないんですか?」
「そうだね……。」
涼介先輩は、寂しそうに微笑んだ。
「一ノ瀬先輩が、涼介先輩によろしくって、言ってました。」
「本当?そっか…。」
涼介先輩は、まだどこか寂しそうだったけど、少し、嬉しそうに微笑んだ。
きっと、一ノ瀬先輩は、涼介先輩のことを、大切に思っているんだろうな。
母親が逝ってしまって、1人になってしまって、寂しくて悲しくてどうしようもない時、そんな時、そばで誰かが寄りそってくれたら、どんなに心強いだろう。
一ノ瀬先輩にとって、それは涼介先輩だったんだ。
辛い時、そばにいて、手を差し伸べてくれた、大切な人。
大学に入ってから、関わる機会が減ったとはいえ、一ノ瀬先輩はまだ、涼介先輩のことが大切で、気にかけているんだ。
だから、よろしく言っておいてって、私に言ったんだ。
「キャプテン、こっち入れます?」
誰かが、涼介先輩を呼んだ。
見ると、工藤くんが、バスケットボール片手に、申し訳なさそうに立っていた。
今の会話を、聞いていたんだろうか?
「うん、今行くよ。」
涼介先輩は、工藤くんに返事をしてから、私のほうに向き直った。
「じゃあ、僕は練習に戻るから。一ノ瀬からの伝言、ありがとうね。」
涼介先輩は、世界中の女子を1度に倒せそうなキラースマイルを私に見せると、工藤くんの方へと、走っていった。
涼介先輩、私、実はもう1つだけ、聞きたいことがあったんです。
結局言えなかったけど……。
『バスケサークルの良くない噂って、一体なんですか?』