雨は君に降り注ぐ
私は、工藤くんのことを、どう思っているのだろう?
『いい先輩』
私にとっての工藤くんは、それ以外の何者でもない。
でも、私の本当の気持ちに、私自身が気づいていないのだとしたら。
いや、私、しっかりしろ。
こんなこと、いくら考えたって分かりっこない。
考えるだけムダだ。
「吉岡さん?本当に大丈夫?」
新川先輩が、私の顔をのぞき込んでいる。
いけない、またボーっとしていた。
「すみません。大丈夫です。」
「そう?何かあったら相談に乗るけど…。」
「いえ、すみません。ご心配かけました。」
「そう…。」
新川先輩は、まだ心配するような顔をしている。
私はなぜか、その表情に、わずかな違和感を覚えた。
更衣室に、気まずい空気が流れる。
「すみません、お先に失礼します。」
「ええ。お疲れさま。」
新川先輩のその声を、最後まで聞くことなく、私は更衣室を飛び出した。
そのまま、逃げるように体育館をあとにする。
廊下を歩いている途中も、私の心臓は、とんでもない速さで動いていた。
なんだ、あれは。
わずかではあったが、私が新川先輩に感じた違和感。
あの心配そうに私を見る顔。
あの顔は、偽りだ。
彼女は、あの裏に、別の表情をしていた。
冷ややかな、笑み。
まるで、獲物のを狙う化け物のような、目。
あの目、何かに似ている。
つい最近、私は、あの目に似た視線に追いかけられた。
黒フードの人物。
私の背筋が、凍った。