雨は君に降り注ぐ
振り向くと、工藤くんが立っていた。
私は反射的に、理子の言葉を思い出す。
『工藤くん、絶対、結希のことが好きだよ。』
そんなわけない。
私が好かれるなんて、ありえない。
分かってるのに、私は、今、
工藤くんと目を合わせることができない。
「彼女、俺のサークルの後輩ですから。」
工藤くんは、爽やかな笑みを浮かべて、こちらへ近づいてくる。
でも、その顔は、完全には笑っていない。
明らかに、一ノ瀬先輩のことを、不審な目で見ている。
「失礼ですけど、あなたは?」
工藤くんが、爽やかとは言いがたい冷たい声で、一ノ瀬先輩に訊ねた。
「3年の、一ノ瀬…。」
「彼女とは、どういった関係で?」
一ノ瀬先輩は、分かりやすく困惑していた。
目を泳がせて、言葉を詰まらせている。
「関係って、別に、」
「彼女と親しいんですか?ナンパなら、よそでやってください。」
一ノ瀬先輩が、ポカンとした顔をした。
もちろん、私も。
工藤くんは、何か勘違いしているようだ。
「君、その子の彼氏か何か?」
突然、一ノ瀬先輩の口から、爆弾が投下された。
工藤くんが、不意をつかれたように、口を開けたまま黙り込んでしまった。
その顔が、若干赤みを帯びているように見えるのは、気のせいだろうか。
「だったらジャマしたね。あとは2人でごゆっくり。」
一ノ瀬先輩は、どこか意地悪く笑うと、廊下の向こうへと去っていった。