雨は君に降り注ぐ

 振り向くと、工藤くんが立っていた。

 私は反射的に、理子の言葉を思い出す。

『工藤くん、絶対、結希のことが好きだよ。』

 そんなわけない。
 私が好かれるなんて、ありえない。
 分かってるのに、私は、今、

 工藤くんと目を合わせることができない。

「彼女、俺のサークルの後輩ですから。」

 工藤くんは、爽やかな笑みを浮かべて、こちらへ近づいてくる。

 でも、その顔は、完全には笑っていない。
 明らかに、一ノ瀬先輩のことを、不審な目で見ている。

「失礼ですけど、あなたは?」

 工藤くんが、爽やかとは言いがたい冷たい声で、一ノ瀬先輩に訊ねた。

「3年の、一ノ瀬…。」
「彼女とは、どういった関係で?」

 一ノ瀬先輩は、分かりやすく困惑していた。
 目を泳がせて、言葉を詰まらせている。

「関係って、別に、」
「彼女と親しいんですか?ナンパなら、よそでやってください。」

 一ノ瀬先輩が、ポカンとした顔をした。
 もちろん、私も。

 工藤くんは、何か勘違いしているようだ。

「君、その子の彼氏か何か?」

 突然、一ノ瀬先輩の口から、爆弾が投下された。

 工藤くんが、不意をつかれたように、口を開けたまま黙り込んでしまった。
 その顔が、若干赤みを帯びているように見えるのは、気のせいだろうか。

「だったらジャマしたね。あとは2人でごゆっくり。」

 一ノ瀬先輩は、どこか意地悪く笑うと、廊下の向こうへと去っていった。
< 50 / 232 >

この作品をシェア

pagetop