雨は君に降り注ぐ

「とりあえず、着替えた方がいいよね。体は冷やさない方がいいから…。」

 部屋の中に入ると、先輩は慌ただしく動き始めた。
 あちこちからタオルを出したり、シャツを出したりしている。

 先輩の部屋は、清潔で、きれいに片付けられていた。
 目立ったほこりやゴミも見当たらないし、物も必要最低限の物しかない。

 男の人の1人暮らしって、こんなに整っているものなんだ?

「じゃあ、とりあえずシャワー、浴びてきてよ。」
「へっ?」

 ずいぶんマヌケな声が出た。

「風呂は、廊下の右手側にあるから。」
「え、えっと、え。」
「着替えとかタオルは、あとで脱衣所に置いておくから。」

 シャワーを浴びる?
 一ノ瀬先輩の家で?

 始めて来た男の人の家で、お風呂に入るだなんて、そんな無防備なことをしていいのだろうか…。

 そう思いながらも、私は結局、シャワーを浴びることにした。

 何しろ、私は、頭からつま先まで、雨によって冷やされていた。
 風邪をひくのは嫌だ。
 ここは大人しく、先輩の言葉に甘えよう。

 お風呂はあったかくって、気持ちよかった。
 シャワーを浴びるだけのはずが、半身浴までしてしまった。
 熱いお湯が、私を癒していく。

 …先輩も。
 一ノ瀬先輩も、このお風呂に、いつも入っているんだろう。
 そう、今の私みたいに、こんな感じに…。

 なんだか、体が、変に熱っぽくなってきた。

 私は慌てて、バスタブを飛び出した。
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