雨は君に降り注ぐ
脱衣所には、ふかふかのバスタオルと、着替えが置いてあった。
グレーのパーカーに、紺のスウェットパンツ。
……一ノ瀬先輩の、服。
着てみると、やはりだぶだぶだった。
パーカーのすそは膝近くまであるし、スウェットは私の足を覆いつくした。
なんだか、恋愛小説に出てくる、おてんば主人公みたい。
パーカーから、微かに、先輩の香りがした。
なんだか、温かい気持ちになった。
「ごめん。僕、そのサイズしか持っていなくて。」
私の着ぐるみのような姿を見て、先輩が申し訳なさそうに言った。
サイズが合わないなんて、当然だ。
私の身長は160cm。
先輩の身長は、どれだけ低く見積もっても、178cmはある。
でも、サイズが合っていなくたって、いいんだ。
着替えを用意してくれた。
そんな先輩の優しさが、たまらなく嬉しい。
「雨、激しくなってきたよ。」
そういわれて、窓の方へ目をやった。
なるほど確かに、雨は先ほどとは比べ物にならないくらい、激しさを増している。
「どうしよう……。」
思わずそう呟くと、先輩は優しくいった。
「雨が弱くなるまで、ここにいるといいよ。」
「えっ…、いいんですか?」
「まあ、たいしたものはないけどね。」
願ってもみないことだった。
先輩と、しばらくの間、一緒に入れる。
2人きりで、入れる。
それだけのことがこんなにも嬉しいのは、一体なぜなんだろう。