雨は君に降り注ぐ

「先輩の、好きな食べ物は?」
「甘いものならなんでも。」
「嫌いな科目は?」
「世界史。」
「趣味は何ですか?」
「寝ること。」

「先輩の、将来の夢は?」

 それまで、すらすら答えていた先輩の口が、固まった。

 聞いたらまずいことだったかな?
 確かに私も、将来の夢を聞かれたら困るけど。

「僕の夢は……。」

 突然、一ノ瀬先輩が、顔を近づけてきた。
 下手したら、キスしてしまいそうな距離だ。

 先輩は、内緒話をするように、人差し指を、私の唇に当てた。
 そして柔らかく微笑むと、私の耳元でささやいた。

 先輩の息が、私の前髪にかかる。

「誰にも言っちゃだめだよ…?」

 心臓が、大きくはねた。

 なんだろう、この感じ。
 今まで、1度も味わったことのない、感情。

 心の中で、何かが落ちる音がした。

 先輩が、私の唇から、人差し指を離す。
 私にはそれが、とても寂しいことのように思えた。

「僕の夢は、」

 先輩は、テーブルの端に放置してあった、ノートパソコンを引き寄せる。
 そして、それを起動させる。

 しばらくパソコンをいじった後、先輩はその画面を、私に向けた。

 そこに表示されていたのは、たくさんの、音符。
 楽譜だ。

 私は、息をのんだ。

「これって……。」

 先輩は、嬉しそうに微笑んだ。

「僕の将来の夢は、作曲家。」
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