雨は君に降り注ぐ

 キーボードが鳴る。

 美しくて、どこか寂しげな音色。

 鍵盤をやさしく叩く先輩の横顔は、とても美しかった。

 キーボードの音色より、ずっと。
 多分、この世の何よりも、美しい。

 イントロの部分が終わる。

 私は、息をたくさん吸い込むと、口を開いた。



♪  今、どこにいますか
   この美しい空が見えていますか


   あの日のことを覚えてる?
   僕が初めて君に出会った日
   雨に濡れたまま立ち尽くしていた君は
   少し変わった子だった

   あの日から僕は変わった
   君のその笑顔のおかげで
   世界のすべてが美しく思えたんだ
   この冷たい雨さえも

   もっと知りたい
   もっと知りたい

   僕のありきたりな人生を変えた君のことを

   雨が上がる
   虹がかかる
   僕が守るから
   僕が君を助けるから

   だからどうか僕を置いていかないで

   雨が降る
   青空が消える
   いつか君がそうしたように
   やさしく抱きしめるから

   どうか、どうか、どうか

   君のその笑顔をもう1度だけ


   今、どこにいますか
   この美しい虹が見えていますか ♪
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