雨は君に降り注ぐ

 アパートの自室の鍵を閉めて、私はため息をつく。

 なんだか、すごく疲れた。
 1ヵ月分の体力を使い果たした気分だ。

「ふふっ…。」

 思わず、笑みがこぼれた。

 なんて素敵な1日だったのだろう。
 幸せすぎて、あれは夢だったんじゃないのか、とさえ思う。
 でも、あれは現実だ。

 あの時、私は確かに、一ノ瀬先輩の部屋で、先輩の曲を歌ったんだ。

『いい夢だね。頑張んなよ。』

 一ノ瀬先輩は、そう言ってくれた。
 嬉しくて嬉しくて、仕方がない。

 今日1日だけで、先輩のことをたくさん知れた。

 私が言いたかったことは、結局言えなかったけど…。

『工藤くんは、私の彼氏じゃありません。』

 でも、そんなことは、どうでもよく思えた。
 そんなこと言ったって、何にもならないだろう。

 ただ、今は、先輩と一緒の時間を過ごせた、それだけで、充分な気がした。



 …理子に会いたい。

 今、どうしようもなく、理子に会いたい。

 涼介先輩とのデート、どうなった?

 もちろん、そのことも聞きたい。
 でも、今はそれよりも、理子に話したいことがある。

『理子、私、好きな人できた。』

 そう、言いたい。

 そう。
 私には、たった今、好きな人ができた。

 その人といると、優しい気持ちになれる。
 その人といると、胸がチクチクする。
 その人といると、雨の日の憂鬱(ゆううつ)さえ吹き飛ぶ。

 こんな気持ちになったのは、初めてだ。
 でも、分かる。

 その人が、私の好きな人だってことが。

 これは、まぎれもない事実。



 私は、一ノ瀬先輩に恋をしている。


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