雨は君に降り注ぐ

 それから、いくらかの月日が流れて、今は7月。

 もうすぐ夏休みというのもあって、大学校内は、なんとなく活気づいている。

 夏が、始まる。

 あれから私は、理子に、あるお願い事をされた。

『その一ノ瀬先輩って人、今度紹介してね。』

 私は、もちろん承知した。
 次、一ノ瀬先輩をどこかで見かけたら、すぐに理子の元へ連れて行こうと思っていた。

 …だけど。

 一ノ瀬先輩は、なかなか見つからなかった。

 まあ、そんなものだろう。
 私は、半分あきらめていた。

 5月もそうだったじゃないか。
 先輩に会いたくて会いたくて、でも見つけられなかった。
 そして、私が先輩のことを忘れかけた頃に、ひょっこりと現れた。

 今回もきっと、同じようなものだ。

 私はきっと、しばらくは先輩に会えない。
 そして、私が先輩のことを忘れかけた頃、油断している時に、突然、不意打ちをくらわせるかのように現れるのだ。

 こんな考え方ができるのは、きっと、私が、先輩のことを理解し始めたからだ。
 だから、先輩がひょっこり現れるまで、気長に待とう、と思えた。

 でも、理子は違ったようだ。

 なかなか現れない一ノ瀬先輩に対して、明らかにイラ立ち始めた。

「まったく、結希に寂しい思いをさせるなんて、なんて男なの?」

 別に、私は寂しくはないのだが。
 慣れた、というか…。

 そう言うと、理子はさらに怒る。

「結希も結希!もっと甘えてもいいと思うよ!」
「甘えるって…。」
「1人にしないでえ~って、言ってみるとかさ。」
「一ノ瀬先輩は、そんなキャラじゃないし…。」
「キャラの問題なの?!」

 理子は理子なりに、私のことを心配してくれているのだろう。

 確かに私も、そろそろいい加減、寂しくなってくるころだ。
< 82 / 232 >

この作品をシェア

pagetop