雨は君に降り注ぐ
「練習試合、結希も観に行くんでしょ?」
話が急に飛んだ。
確か、さっきまで、一ノ瀬先輩の話を…。
「う、うん、観に行くよ。工藤くんに誘われたから。」
「うちは、その一ノ瀬って男より、工藤くんの方がいいと思う。」
話が急に戻った。
確か、さっきまで、練習試合の話を…。
「結希をほったらかしにしちゃう一ノ瀬より、工藤くんの方が優しいと思うし。」
理子はもはや、一ノ瀬先輩のことを呼び捨てにしている。
「うーん、でも、」
「ま、結希が一ノ瀬を好きになったんだから、それでいいんじゃない。」
「理子…。」
「で、練習試合のことだけどさ。」
また、話が飛んだ。
話題を急に切り替えることは、理子の特技の1つだ。
「理子も観に行くんだよね?」
「もちろん!涼ちゃんが出るからね。」
「キャプテンだからね。楽しみ、あ。」
私は、そこで言葉を切った。
あるものに、目を奪われたからだ。
体育館の前を横切っていく、見覚えのある、顔。
「どうしたの?結希?」
理子が、心配そうに、私の顔をのぞき込む。
でも、その理子の声に答える前に、私は、走り出していた。
あの人を追いかけなくちゃ。
見失う前に。
どこかへ、消えてしまう前に。