雨は君に降り注ぐ
2
「結希~、おは~。」
のんきな声。
なぜか、この声を聞くと安心する。
私は顔いっぱいに満面の笑みを浮かべて、声のした方へ振り返った。
「おはよ、理子。」
そう言うと、彼女もまた、顔いっぱいに満面の笑みを浮かべて、私に抱き着いてきた。……と、言うより、飛びかかってきた、かな?
おかげで、私はバランスを崩し、理子と一緒に、廊下に大の字に寝転ぶ形になってしまった。
「ちょ、ちょっと…」
そばを通りかかる学生たちが、何ごとかとこちらを見ている。
注目の的。
ああ、恥ずかしい。
自分の顔が赤くなっていくのがよくわかる。
「ちょっと理子、ここ、大学だよ?」
「わかってるって。」
理子はいたずらっぽく笑うと、私の体の上から起き上がった。
「ちょっと結希、いつまで寝てんの?早く行こうよ。」
「どの口が言ってんのよ…。」
私は不機嫌な顔をつくりながらゆっくりと起き上がって、爆笑している理子と肩を並べて、教室へと歩き出した。
彼女の名は、小澤理子。
私と同じ1年で、言うまでもなく、私の友人。
きっかけは単純。
大学での講義の初日に、隣の席に座っていたのが、理子だった。
屈託のない、愛らしい笑顔で積極的に接してくる理子を見て、私は心の底から、この子のことをもっと知りたい、そう思った。
そんな願いが通じたのか、私と理子は、瞬く間に打ち解け合い、知り合って2週間にして、お互いを『親友』、と呼び合える仲にまでなった。
理子は、明るくて優しい子だ。
顔も、とても可愛らしい。
顔もスタイルも平凡で、性格も内気な私から見れば、理子は輝いて、私には眩しすぎる存在だった。
そんな理子が、私の友人。
これは、人類の歴史史上、あ、いや、それはさすがに大げさ……私の18年の人生史上、1番の奇跡と言えよう。
人に自ら関わろうとすることが苦手な私に、理子が初めて話しかけてくれたとき、私がどんなに嬉しかったか。
理子が私にとって、どれほど大切な存在か。
そのことは、照れくさくって、本人にはまだ言えていない。