雨は君に降り注ぐ
「うわあーーキレイ!」
目の前に広がるその景色に、私は目を見張った。
「でしょ?ここ、なにげに穴場なんだ。」
隣の工藤くんが、嬉しそうに言う。
「気に言ってくれた?」
「うん!とっても!」
「よかったあ。」
工藤くんと打ち上げを抜け出して、ここにやって来たのが、20分前。
最初は、ただの小高い丘だ、としか思わなかった。
あたりはすっかり暗いし、工藤くんは何を考えてここに連れてきたんだろう、と思った。
7月とはいえ少し寒いし、居酒屋に残った方がよかったかも。
と思った、まさにその時。
パンっ。
何かが、はじける音がした。
それは、夏の夜空に、きれいに咲き誇った。
花火だ。
頭がそう認識したと同時に、また次の花が咲く。
それが消えると、間を置くことなく、また次の花が。
赤、青、黄色、ピンク。
漆黒の空に、色が付く。
「すごいすごい!本当にきれい!」
その丘には、私たち以外、誰もいなかった。
こんなに美しく花火が見えるのに、誰もいない。
それがすごく新鮮で、神秘的だった。
こんなに静かな場所で、きれいな花火を眺める。
こんな贅沢って、他にない。
「工藤くん、ありがとう。私、今が今日で1番幸せ。」
工藤くんの顔が赤く染まった気がするのは、きっと、花火のせいだ。
「うん。…俺もだよ。」
工藤くんの小さな声は、花火の音で、すぐにかき消えてしまった。