【短】今夜、君と夜を待っている。
夜中にこういうやり取りをしていると、まるで高平くんに恋をしているような気分になる。
高平くんももしかしてわたしのことを、と期待してしまう。
けれど、そうじゃないって知ってる。
もう、眠った?⠀と打ったメッセージを数秒迷って送信する。
もともと、お互いの睡眠時間を削りあっているのだから、少しくらい邪魔したっていい。
おやすみのあとに、やっぱりもう少し、と高平くんが夜を引き延ばそうとすることもたまにある。
以前高平くんが教えてくれた曲をいちばん音量を低くして流しながら、返信を待つ。
いつまで経っても返信は来なくて、これはもう寝ているなと諦めかけたとき。
ぷつっと音楽が途切れて、伏せかけていた瞼を開けると着信画面に切り替わっていた。
めずらしい、電話なんて。
喉を鳴らして声の調子を整え、通話に繋げる。
「……おはよう?」
もしもし、と迷って朝の挨拶にした。
たまには、家族よりも先に、別の誰かにおはようって言ってみたくて。
『おはよ。さっきぶり』
「うん。十分ぶりかな。起きてた?」
『いや、全然寝てた』
からから、と風車を回すような笑い声がきこえる。
いつもより低くて、掠れた声は確かに眠そうだ。
ごめんね、と言いかけて、飲み込んで。
高平くんの夢よりももっと誘惑的な話題を探す。
仰向けになってカーテンを捲ってみると、朝はもうすぐそこにわたしたちを迎えに来ていた。