【短】今夜、君と夜を待っている。
「それで結局昼になって登校してきてたら世話ないわ」
「本当にもう、返す言葉もない……」
女子更衣室となっている空き教室で体操服に着替えながら、目の前で髪を結う春乃に言うと、ふうっと音を立てて吐息をこぼす。
「高平のせいでひよりが不良になっていく」
「た、高平くんのせいじゃないし。不良でもないし」
「寝坊の原因はどう考えても高平でしょうが」
「それはわたしのせいだよ……目覚ましのかけ忘れ」
朝のアラームは毎日手動で設定していて、寝る前にそうするのが当たり前になっていたから、いつもとちがう感じで眠りについたせいかすっかり失念していた。
自然と目を覚ましたのが午前中だっただけでも幸運だと思いたい。
家にいたお母さんは、何度も起こしたのに起きなかったからとまったく頼りにならなかった。
「今日の体育ってなんだっけ」
「さあ?⠀バスケ……バレーかな。球技じゃなかったっけ」
「うわあ……ボール来たらかばってね」
「踏み越えてあげるから安心しなよ」
全然安心のあの字も感じられない春乃は、寝不足のせいか動作に身が入らないわたしの髪をさっと結ってくれた。
眠気覚ましに、と手首にかけてくれたシトラスの香りを吸いながら体育館へと向かう途中、向こうから歩いてくる高平くんの姿につい足を止める。
「ひより?」
ふらふらと歩くわたしの手を引いてくれていた春乃も立ち止まる。
高平くんはわたしにも春乃にも一瞥もくれず、真横を通り過ぎて行った。
「なあに、あれ。感じ悪い。ひよりいつもあんなのと相手してるの?」
「あんなのでも、結構気さくなんだよ」
あんなの、なんて思ってない。
けれど、高平くんの素っ気ない態度はそう思われても、言ったとしても、おかしくない。
冷たい、素っ気ない、無愛想、こわい。
それが高平くんに向けられる目だ。