【短】今夜、君と夜を待っている。
教室へと向かっているであろう背中を振り向く。
目立つ明るい茶髪は窓から差し込む光を含んできらきらと輝いている。
髪の隙間から覗く耳には赤いピアス。
すれてぼろぼろのスクールバッグ。
短い袖からは校則違反の紫のシャツが見える。
高平くんが夜になると小さな子どものようだと春乃に伝えたところで、信じてはくれない。
態度も無骨な格好もそうだけれど、高平くんは決して背中を曲げて歩かない。
真っ直ぐに胸を張って歩く。だから、目を惹く。
「もし、もしも、だけど」
「うん?」
「ひよりが高平と付き合うってなったら、絶対私の審査が入るから。それだけは覚えといて」
急に真剣な顔付きでわたしの両肩を掴むから、勢いに圧倒されて頷きそうになったところで慌てて首を横に振る。
「な、ないない。ない!」
「絶対とは言わないんだね」
そりゃあ、絶対なんて口にしたら、もしかしたら嘘になってしまうかもしれない。
万に一つがありえないとは言えないのだから。
「でも、好きになったらちゃんとその気持ちを真ん中に置くんだよ。きっかけとか自信のあるなしは二の次なんだから」
とん、と曲げた指の関節でジャージ越しに胸を叩かれる。
春乃の言い様はまるで、わたしが必死で高平くんとのやり取りのある晩だけに置き去りにしようとしている気持ちを見透かしているみたいだ。