【短】今夜、君と夜を待っている。


体育の授業は春乃の言っていた通りの球技で、多数決の結果バスケになった。

パスは取り逃すしエアボールは連発、挙句後頭部にスローインの緩い球を受けて強制退去。

ある意味予想できていたハプニングに笑みすらこぼしながら、ステージの上に上がる。


動き始めたころからズキズキと痛みを訴えていた頭にタオルをかけて、一応水分補給をしておく。

午後一が体育だというのに水筒も持ってきていなくて、小銭も教室に置いてきたわたしに春乃がさっき買ってくれたスポーツドリンク。

至れり尽くせりだなあ、なんて思いながら半分に区切ったコートの向こうを見遣ると、男子がハンドボールをしていた。


今は廃部になったハンドボール部のゴールがまだ残っていて、体育では男子の一番人気だ。

やたらとキレのあるスカイプレーに、同じくステージの上で交代待ちをしている女子はきゃあきゃあ騒いでる。


音で空気は揺れても床の振動は届かないステージにいると少しだけ気分が落ち着く。

男子で試合に参加していない人はギャラリーから観戦しているようで、そのなかに高平くんの姿もある。


本来、体育は男女別なのだけれど、なぜかわたしのクラスだけ他学年とダブルブッキングしていて、体育館と運動場を交互に使っている。

本来なら、運動している姿はおろか体操服姿をこうして見ることもないのだ。

そういう点ではラッキーなのかもしれない。

襟足の長い高平くんは体育のときだけちょこんと後ろ髪を結っていて、雰囲気が変わる。

何度指導されてもその長さをキープしているから、何かこだわりでもあるのだろう。

試合にはさして興味がないのか、ギャラリーの鉄柵に背をもたれているからぴょこぴょこした髪が揺れているのがよく見える。

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