【短】今夜、君と夜を待っている。
しばらくして女子は負けた方のチームが入れ替わったけれど、わたしは依然見学を言い渡された。
隣に座った春乃は持参の水筒を煽り、すごい勢いで喉に流し込んでいく。
「それ、何茶?」
「疲労回復には緑茶でしょ。飲む?」
「ううん。いらない」
透明なボトルの中身は随分と濃いからきいてみただけで、気にならないのなら構わない。
同じタイミングで男子も人を入れ替えた様子なのに、高平くんは微動だにせずにギャラリーに座っている。
背を向けているから顔は見えないけれど、眠っているのかもしれない。
「頭痛いんじゃないの、ひより」
「座ってたら痛くないから平気」
「ならいいけど。終わってから悪かったら保健室行きなよ」
試合の行方はどうでもいいようで、春乃はステージに寝転んで伸びをした。
両腕両足を閉じたり開いたりしながら、不意に天井のどこかに視線を止める。
「あ、あれ。ぺんたさんじゃん」
「え、どこどこ」
学校七不思議のひとつ。ぺんたさん。
校内にいくつか描かれている狐のような絵で、すべて見つけると化かされるという話がある。
いくつあるのかはわかっていなくて、絵が移動するだなんて根も葉もないうわさまで広まっていた。
明らかに新しく描き足されたようなぺんたさんはよく見かけるけれど、春乃が天井に見つけたぺんたさんは他の場所に昔からある絵と同じようだ。
「狐に化かされるってうわさ、元祖ぺんたさんを全部見つけたらなのか、新ぺんたさんも含まれるのか、どっちだろう」
「そんな真面目にぺんたさんのこと探してる人いないって」
「そうかなあ……でも案外、探してない人が見つけるんだよね、こういうのって」
自分で言っておいて、ちょっとぞくっとした。
天上のぺんたさんが目を閉じていて良かった。
「コラ、そこ!⠀ステージで寝るな」
男子を見ている体育教師と話し込んでいた女子の方の先生に目敏く見つかり、渋々起き上がる。
いつの間にか高平くんはいなくなっていて、試合のなかにも参加していなかった。