【短】今夜、君と夜を待っている。





それから一週間は高平くんからメッセージが届くことも教室で話すこともなく、木曜日になった夜中にいつもの四文字が送られてきた。


起きてるよ、と返すと、まずは『眠くない?』ときかれる。

これもいつものことだ。

大丈夫と伝えたのに何度もくどく『本当に?』と届いて首を傾げると『この前、遅刻したんだろ』と続いた。


「気にしてくれてたのかな……」


和泉くんのときのように五分差ではなくて、わたしは昼前に着いたけれど高平くんは午後の授業の直前に登校していた。

誰かからわたしが遅刻してきたことをきいたのだろう。

高平くんのせいではないし、アラームをかけ忘れたわたしの落ち度だ。

皆勤賞を狙っているわけでもないし、本当に眠くないと伝えるとようやく納得してくれた。


お互いのオススメの曲を一曲教えあって、早速検索をかける。

高平くんのオススメは大体邦ロックが多いけれど、今日はきいたことがないアーティストのバラードだ。

切なげで儚くか細いピアノに中性的な声が乗る。

何となく、歌詞を目で追いながら聴いていると、曲の終わりかけで『聴き入ってた?』とまるでわかっていたような口振りのメッセージが表示された。


よくよく歌詞を見ると失恋風味の曲で、今のわたしにはちょっと辛いなあ、なんて思ってしまう。

当然、高平くんにそんなことを伝えられないけれど。


心臓に巻き付く糸を、きゅるっと巻き付けてぎゅっと引っ張ったような痛みを覚えた。


幾度となく、恋ではないと否定し続けた。

この夜だけは確かに高平くんに恋をしていても、朝になって明日になって、何のやり取りもない一週間を過ごせば、痛みを、切なさを恋とは呼べなくなる。


『今日の曲、佐和らしくないな。本当に好きな曲?』


ほら、また。知ったような口でいうんだ。

それが的を得ているから、こんなにも泣きたくなる。

< 8 / 20 >

この作品をシェア

pagetop