【短】今夜、君と夜を待っている。
ドラマの主題歌だから、そらで歌詞も覚えてしまったけれど、曲調も声も何もかも好きじゃない。
最近のプレイリストはもっぱら失恋ソングや片想いを歌うものばかりで、高平くんには教えたくなかった。
本当に大好きな曲だけを集めたプレイリストはもう、先週で切らしてしまったから、咄嗟にランキング三位の曲を教えたのだ。
何を聴くのも、どんな曲を好むかも、個人の自由だ。
高平くんはわたしのオススメを意外だといったことはあるけれど、らしくないといわれたことはない。
今日はじめて、わたしらしくないといわれた。
通話でなくて良かったと心底思う。
こんな涙声をきかせようものなら、不自然に切ってしまっていただろう。
苦し紛れに、失恋ソングのなかでも表現が抽象的で、一見そうはきこえない曲を選んで高平くんに送る。
この曲は三分と少し。
そのあと、高平くんに何を言えばいいのかわからない。
高平くんに教えた曲を流しながら、今、同じ曲を聴いていると考えるだけで胸がいっぱいになる。
十年以上も前の、歴史と名曲に埋もれたマイナーソング。
今、この瞬間に、同じ節を聴いている人はきっとわたしと高平くんしかいない。
こんな小さな、とりとめのない奇跡が嬉しくてたまらないのに、一週間に一度の恋だなんてありえない。
好き。ちゃんと、好き。
朝を遠ざけたがって、夜を誰かと過ごしたがる高平くんも、学校での無愛想で近寄り難い高平くんも、変わりなく好きだ。