申請王子様
『申請書:本日付で王子様を目指したいと思います』



総務部総務課には王子様がいる、と私は勝手に思っている。
御曹司でもなければ出世コースでもない、総務課の市川課長。
私は市川さんに会うために無駄に総務部のフロアに足を運ぶ。

「失礼しまーす」

曇りガラスの扉を開けると向かって左の壁側に市川さんは座っている。

ああ……今日もそっくりでかっこいい……。

私がドはまりしている恋愛マンガの王子様にそっくりで、見るたびにときめいてしまう。
マンガの王子をもし実写にするとしたら、キャスティングは是非市川さんでお願いしたい。

「ああ、宮本さんお疲れ様です」

私に気づいた市川さんは挨拶をしてチラッと視線を合わせただけですぐにパソコンを見てしまう。

「お疲れ様です。今月も申請書です。よろしくお願い致します」

市川さんの目の前に書類を差し出すけれど、「あ、これは経理課です」と一枚突き返される。

「すみません……」

書類によって提出先が経理課と総務課で分かれていて、私はいつも間違えてしまう。

「これは……丹羽さんお願いします」

「はい」

私が渡した内の一枚は斜め向かいに座る丹羽さんに渡される。

「こっちは……黒井さんで」

「かしこまりました」

さらにもう一枚は丹羽さんの向かいに座った黒井さんの元に移動する。

「あと、これは事業部長に承諾のハンコをいただいてください」

最後の一枚も返されてしまう。

「はい………」

ああ、また不備の書類を見せに来てしまった。

「宮本さん、事業部の他の方の申請書も持ってきていますが、頼まれたのですか?」

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