申請王子様
王子と違うところは市川さんは笑わないというところだ。髪を金髪にしてくれたらさらに似ているだろう。
あまりにも市川さんが気になるから、王子に似ているから市川さんが気になるのか、単純に市川さん本人が気になるのかわからなくなっていた。
新店舗のチラシが刷り上がって届いたというので一階の受付に寄り、資料室に運ぶために抱えてエレベーターに乗った。
両手で抱えないと落としてしまいそうなほど重いチラシの束に、ボタンを押すのに苦労した。
途中の階でエレベーターが止まり、市川さんが乗ってきたときは驚いて「うぉ!」と変な声が出てしまった。
「宮本さんお疲れ様です。驚かしてしまってすみません」
「いえ……」
市川さんはただ乗ってきただけなのに必要以上に驚いてしまって恥ずかしい。
私の行きたい資料室と総務部は同じフロアにある。エレベーターが止まると階数パネルの近くに立っていた私はチラシの束を片手で抱え直して『閉』ボタンを押していた。
「市川課長お先にどうぞ」
「ありがとうございます」
市川さんが先に降りた瞬間、片手で抱えきれない重さだったチラシの束を落としてしまった。
紙テープで軽く縛ってあるだけの束は弾みでテープが破れ、パラパラと床にチラシが散る。
「ああ……」
慌てて拾う私に市川さんも「大丈夫ですか?」と手伝ってくれる。
「すみません……」
王子に拾わせてしまうなんて……。
全て拾い終わると市川さんは「資料室まで僕も手伝います」と言ってくれた。