申請王子様
「市川さんは大丈夫ですか?」
「僕は大丈夫です」
耳元で市川さんの声がする。顔同士がすぐ近くにあるからだ。
その状況に私は耐えられず、慌てて市川さんから離れた。その機敏な動きに市川さんは驚いて目を丸くする。
「あの、ありがとうございました……」
「危ないと思って下に来てよかったです」
「え?」
「なんだか宮本さんが落ちてしまうんじゃないかと思ったので」
私をキャッチするために下に居てくれたということなのか。なにそれ……かっこいい……。
「王子みたい……」
城の庭師の娘に転生した主人公が木から落ちたところを王子にキャッチされる。まるでマンガの第一話のようだ。
「王子?」
市川さんが不思議そうな声を出す。思わず口から出た言葉を聞かれ恥ずかしくなる。
「何でもないです!」
私は両手をブンブンと振って失言を誤魔化した。
「宮本さん、今のってどういう……」
「何でもないんです! 助けていただいてありがとうございました! あとは自分でできますので!」
私は恐れ多くも市川さんの背中を押して資料室から追い出した。いつも冷静な市川さんが驚いたのか目を見開いている。
「あのっ、宮本さん?」
「すみませんでした!」
資料室のドアを閉めると額に汗がどっと吹きだす。
やばい、市川王子をクッションにした上に追い出してしまった。落ちることを予想されるほど私って間抜けなんだ……。
こんなことしたら絶対に怒ってる……変な奴だと思われた……。マンガの王子と勝手に重ねるなんて失礼かもしれないのに……。