申請王子様
◇◇◇◇◇



出張に関する申請書をExcelフォーマットに入力して印刷した。

「交通費と……ビジネスホテル代……オッケーかな」

呟いてから申請書を持って総務部のフロアに向かう。

市川さんに会いづらいな……。

「失礼しまーす」

扉を開けると市川さんはいなかった。

「あ、宮本さんだ。お疲れさまー」

総務課の丹羽さんが笑顔を向けてくれる。

「お疲れ様です。市川課長はいらっしゃいますか?」

「課長は遅めのお昼休憩に行ってるよ」

「そうですか……」

それは残念なような良かったような……。

「今日は何の申請書?」

「あ、出張申請です。課長がいるときに出直しますか?」

「うーん……宿泊代とかは課長しか出せないし……預かって渡しておくね」

「ありがとうございます」

丹羽さんに申請書を渡した。

「ねえねえ、宮本さん、王子って何?」

「え?」

「課長を王子って呼んだんでしょ?」

顔が真っ赤になったのが自分でもわかった。

「ど、どうしてそれを?」

「課長が王子とは? って聞いてきたから」

「え!?」

丹羽さんは微笑んでいる。

「宮本さんに王子って言われたのが不思議だったんだって。課長ってあの通りクールだから、どうして僕が王子なのかって」

「あの……それは……昨日販促のチラシを運ぶの手伝ってもらったのが意外で……」

「課長が? 宮本さんを?」

「はい……」

いつも物静かな人が私と長く会話をしてくれたのも初めてなのに、あんなに至近距離で体が触れ合ってしまった。
丹羽さんも意外だったのだろう。「へー、課長が」と呟く。

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