申請王子様
「他部署の人とはあまり積極的には話さないのに珍しいね」
「そうですよね……」
「意外な行動をする課長は王子様みたいだった?」
「それもなんですけど……私のハマってるマンガの王子様に似てるんです」
私は簡単に丹羽さんにマンガの説明をした。
「とにかく絵が綺麗で、表情もリアルなんです。だから課長と結構似て見えて……」
「だから宮本さんは気になってるんだ」
更に顔が赤くなる。
「いや……あの……気になってるには気になってるんですけど……」
私はマンガの中の優しい王子が良いのであって、市川さんの顔だけが良いのだとは言えない……。
「市川さんはああ見えて本当は優しいんだよ。ねー、実弥ちゃん」
実弥ちゃんと呼ばれた黒井さんがパソコンの向こうで顔を上げた。今まで黙っていた黒井さんも「課長は誤解されやすいけど色々と気遣いのできる人ですよ」と言った。
「市川課長って今彼女いないんだって。だから宮本さん頑張ってね」
「え!? いや、そんなつもりは……」
私は市川さんに恋愛感情とかそういうのではないのに……。
曖昧にしたまま総務部のフロアを出てエレベーターに乗ると溜め息をついた。
市川さん、やっぱり王子って言ったこと気になっちゃたんだ……どうしよう、総務課の方にもバレて恥ずかしすぎる……。
担当の店舗を巡回しようかと会社を出る準備をしていた時、突然市川さんがフロアに顔を出した。
「宮本さん」
「はいっ!」
思いがけず大きな声で返事をしてしまった。