申請王子様

「提出していただいた出張申請書ですが」

「はい……」

市川さんの手には丹羽さんに預けた出張申請書がある。また何かミスがあったのかと身構えた。

「出張は宮本さん一人で行かれるんですか?」

「いえ、二人です」

「そうですか……それは大問題です」

「え?」

「ホテルの宿泊代が一部屋分の料金しか申請されていませんよ?」

「えっ!」

受け取った申請書を見直すとホテルの代金が一部屋で二人分の料金しか記入されていない。

「男性社員と同じ部屋で申請されたので色々と勘ぐってしまいました」

「すみません……私のミスです。二部屋で二人分に訂正します……」

またやってしまった。確認したはずなのに私はいつも市川さんが関わるとどこか抜けている。

「ではこれは本当にミスなんですね? 宮本さんとこの男性社員が敢えて同じ部屋にしたわけじゃないんですね?」

「違います! それは色々とまずいので、ホテルの予約はちゃんと男女別れて取りました。二部屋です!」

手も頭もブンブンと振って否定する。

「なら安心しました」

「すみません……」

市川さんに男性社員と同部屋にしたんだと誤解されるとこだった。

あれ? 私どうして誤解されたくないんだ?

「もしかしてお二人はお付き合いしているのかと不安になったので、これはミスで良かったです」

「はい……え?」

「では、当日はちゃんとホテルの領収書をもらってくださいね」

「はい……あの……」

市川さんは無表情のままフロアのドアに向かってしまったのでそれ以上何も言えなくなる。
今の市川さんの言葉はどういう意味なのかな?



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