此処は最果て
ほんの一週間前まで平常通り運行していたバスも電車も、唐突に政府が下した「地球解放宣言」を受けて一気に無人運行に変わった。電車は元々決まったレールを走るだけ、元から無人の列車が運行しているところもあったがバスやタクシーはそうはいかない。
瞬く間に社会は運行を停止し、規律を守っていた世界は壊れ、道路には乗り捨てられた車が散見しどこぞのウイルス蔓延・ゾンビ映画みたいな荒廃を見せた。
どこからともなく飛んできた新聞紙はこれ定型文ならぬ定型映像なんかと思ったし。
それまでブラックだ残業だ働き方改革だ働きすぎだと取り憑かれていたように動いていた経済も、いとも簡単に崩壊した。
世界はいま、荒んでる。物凄い速度で崩壊し、今日ここに来るまでにどっかのでっかい会社のビルからサラリーマンの男が泣き笑いながら資料をぶち撒けて間もなく空から降ってきた。
世界はいま。荒んでる。
その様があまりに滑稽だったから、おれは家にあった趣味の一眼を首から提げて街の外に飛び出した。
どうせ壊れる間際の世界にまともが繰り広げられるだなんて思ってやいなかった。
母さんだって父さんと過ごすのかと思ったら不倫相手に会いに行ったし、父さんもパパ活相手のJKに会いに行くらしい。
侑吏、お前は好きにしろって笑われた。
言われなくてもするんだわ。
おめーら家族と血が繋がってたことが屈辱だ。
「お前」
「…」
「お前どっから来たの」
シャッターを切る前、ピピ、とピントを合わせて問いかける。
黒髪、高身長、口の端にほくろ。へー、色男じゃねーか。サッカーやってそうモテそう少女漫画に出てきそう。
あれこれ考えて問いかけるのに、男は遠くを見ていて答えない。