此処は最果て
「おーい。お兄さん聞いてます」
「…」
「よっ、色男。ハンサム。黒髪。色ぼくろ!」
「…」
「スカしやがってばーかばーかトリプルうんこ」
ローファーを投げられた。
べす、と頬にクリティカルヒットして座席から倒れたおれは聞こえてんじゃんってこめかみに血管を浮かべるけど、男は興味なさそうに歩いてきてローファーに足を捩じ込んで白けた目でおれを見下ろしてくる。
「…最悪だわお前みたいな低俗と列車乗り込むことになるなんて」
「お、美声。てかそれこっちの台詞だかんな」
おめーがいなかったら電車貸切だったんよ、と座席に寝そべったまたバシャ、とシャッターを切る。荒廃した町、抱き合って絶命する夫婦、いつもと変わらない空、からの不服げな色男。
意味わかんねーラインナップ、ってカメラの撮影画像を見ながら座席に寝転んだら男はまた定位置に戻る。
「おいそこ好きなんかよ。こんな座席あんのにカッコつけて立ってんじゃねーよ。ドラマか」
「…」
「そんでまたシカトかよはぁだっっっる。かっこつけ顔だけビチビチウンコ野郎」
ローファーを投げられた。
何回このやりとりするん? と今度は顔面に貼り付いたローファーをべりと剥がすとさっきより気怠げに戻る男を見送って、おれはきゅう、とうずまきを描いた目元と星の散った世界でようやく色を取り戻す。
その日、空は恐ろしいくらい綺麗で。
地球の最後になんで人間風情が関与するんだって思うくらい。この世界を終わらせるなんて神様でも大それたこと、おれらが足突っ込むから壊れるんだ、ざまあみろって。
パシャ、と車窓からシャッターを切った。