此処は最果て
「次の駅で降りる」
「ええ、降りてどうすんよ。外はあぶねーよ? おれここくるときも割と抜き足差し足で来たもんね、ほら、今ホームレスとかがすげーコンビニとか牛耳って飲み会やってんじゃん。おれたちの努力が身を結んだんだー、ってな。レジの前で一人のじいちゃんが立って酒瓶片手にまるで大学のサークルだぜ。か、宗教団体? 教祖様ってな、怖かったわ。その名残、残党にうっかり足引っ掛けて転んでさ、ジジイじゃなかったらマジおっつかれて殺されるとこだった」
「まるで盗人だな」
「誰がだよ」
喧嘩売ってんのかお? 身長のことか、身長のこと言ってんのか? と中指を突き立てても男はまるで見向きもしない。だからおれもだるくなって、次第に何もいわなくなった。
そうだ思えばこの時、一緒にいるのがだるいならせめて車両を変えたらよかったんだ。おれもお前も。無人で走る列車は貸切ではないけれど、中途半端に一人でいたような気分にはなれたはず。
でも出逢ったからには今更そんなの全部パーで。
出遭ったからこそ今更一人には多分お互いなれなかった。
次の駅について、男が降りなかったところを見てそう思う。
「降りねえじゃん」
「寝過ごした」
「お前は目ぇ開けたまま腕組みして寝過ごすんか。かっこいいこって」
「…」
「またシカトかよ。バーカバーカうそうそうそ」
ローファーを構えた男から四つん這いで逃げながら座席のはじの柵に隠れる。なんかな。顔がよかろうが声がよかろうがこんな暴力野郎じゃさてはこいつこの世界でモテなかったな、と納得する。天は二物を与えずとはまさにこのこと。
今更どうでもいいけどね。
「なんで電車に乗りこもうと思った」
政府が予告した地球終焉の時間はきちんと把握している。
誕生日に自分へのご褒美で買った懐中時計、それを見ながら上着に直して外を目で追っていたら男がそう、切り出した。
「おん。今更かまちょかよ。人に物を聞くときは自分から語るべきだとおれは思いますけどね」
「どこにも行けないから」