カタブツ御曹司と懐妊疑惑の初夜~一夜を共にしたら、猛愛本能が目覚めました~
『もしもーし、兄貴?』
「斗真! 菜々花さんになにを言った!」
俺がすぐに用件を切り出すと、斗真は変わらないトーンで『ああ、それね』と軽い相づちを打つ。苛立ちでこちらの眉間にはみるみる力が入っていく。
『ダメじゃないか兄貴、ホイホイ騙されたら。妊娠をほのめかしてプロポーズにこぎ着けるなんてよくある手法さ。詐欺で訴えたっていいくらいだよ』
「違う! 俺が勝手に誤解をしていただけで、彼女はなにも悪くない! それに、妊娠のことがなくても、俺は菜々花さんのことが……」
『はいはい。だから、兄貴のそういうクソ真面目なところも向こうは織込み済みなんだって。あんな女、ただのいち社員じゃないか。冷静になれよ』
スマホのプラスチックカバーがメキッと音を立て、ヒビが入った。
「……おい。次に菜々花さんのことを〝あんな女〟などと呼んだら、いくらお前でも許さない」
数秒向こうは静かになり、ゴクリという喉の音が聞こえた。