カタブツ御曹司と懐妊疑惑の初夜~一夜を共にしたら、猛愛本能が目覚めました~
「……なにか涙の理由が?」
竹澤さんは浮かせた腰を椅子へ戻し、足を組んで優しく問いかける。
私は泣くことを許された気がし、さらに涙腺を決壊させながら答えた。
「好きな人がいて、失恋、してしまって。まだ私、忘れられなくて……」
「んん? ……それって、斗真のお兄さんのこと?」
「えっ」
竹澤さんがそこまで知っているとは思わず、一瞬だけ涙が引っ込む。
「な、な、なんで、それを」
「斗真から頼まれていたんですよ。きみは次期社長の妻の座を狙っている困った女だから、少しの間、お兄さんから遠ざけるために俺に相手をしてほしいって。斗真にはそういう借りがいくつかあるから、しかたなく了承したんです」