カタブツ御曹司と懐妊疑惑の初夜~一夜を共にしたら、猛愛本能が目覚めました~
驚きはしたが、悲しみもなにもない。「そうなんですか」と声に出た通り、こちらは空っぽで、どうでもよいと感じた。
「御曹司なら誰でもいいらしいと聞かされていたのですが……なるほど、聞いていた話と少し違うとわかりました。片思いをするのは好きではないので、悪いけどこれっきりにさせてください。あまり深みにはまると、きみに惚れそうだから」
彼は小さなカップのコーヒーを飲み干し、「もう出ましょうか」と立ち上がる。私もゆらりと後へ続き、クロークに預けていた荷物を受け取った。
竹澤さんは駅まで送ってくれ、手を振って帰って行く。とてもあっさりした別れだった。
おそらく慰める言葉もないほどに、今の私は傷心した顔つきをしていたからだろう。