身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
そう問われて、文月はゆっくりとうなずいた。
昔の夢を見ることは、病気が治ってから多くなっていた。祖母の事や病気で苦しんだ事、そして両親のやってきた事。それらをまた夢で繰り返してしまう。
もう終わった事だというのに、夢を見ているとそれが終わらない現実のように感じ、目覚めても夢の続きのように体や心が苦しくなるのだ。
「時々ですが。そういう夢を見た朝は、息苦しくなるんです。けど...今日はちょっと違う夢だったと思います」
「どんな夢だった?」
「病気で苦しんでいるところに知らない男の子が看病しに来てくれました。私の知らない子でしたけど、きっと友達が欲しかったので夢に出てきてくれたのかもしれないですね」
「....そうか」
涙を流した跡があるのだろうか。
桜門は白く冷たい手で、文月の頬を何度かさすってくれる。
いつもの笑みはあるものの、どこか遠くを見ているように感じられた。
「桜門さんがここに居たのは驚きましたけど。でも、怖い夢を見た時に誰かが傍に居てくれると、その夢は現実では終わってるんだってわかってホッとしますね。だから、今日は来てくれて嬉しかったです。ありがとうございます」
突然の来訪に驚いて大声を上げてしまったけれど、内心ではとても嬉しかった。
起きた時に誰かが傍にいるなど、入院し祖母が見舞いに来てくれた時以来だ。
病気が治ったとしても、体調は崩しやすい。そういう時は夢で泣いてしまう事も多かったのだ。その時に寝起きといったら最悪な場合がほとんどだが。今日は違った。
彼の冷たい体温が、文月を安心させてくれるのだ。