身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
文月の考えは違ったようで、驚いて顔を上げる。
大切な存在がツボミならば、白銀が助けたいのはそのドールのはずだ。それが違うというのは、文月には理解出来なかった。
疑問ばかりで、文月は首を傾げながら考えていると、桜門はすぐに正解を教えてくれた。
「ツボミを修理するドールに自分の知識を渡してほしいそうだ」
「それは、ツボミを直す代わりをしてもらうため」
文月がやっとのことで白銀の考えに気付き、そういうと桜門はゆっくりと頷いた。
「ドールの名前は花シリーズとかいう最新のドール。スミレ。そのスミレに命とドールの知能を身代わりに捧げる。白銀がその命がつきる前に」
白銀の大切なドール、ツボミ。
初代のAIドールは、きっと白銀にとっては思い出深いものなのだろう。
今はドールは家電の一つという扱いだ。高額なため、まだ普及はしていないが、将来的には家事などの仕事を代わりに行うモノとして必要不可欠な存在になるだろうと言われている。
そんな大きな発明をした白銀は、きっと家電などという扱いでツボミを見ているはずはなかった。そうでなければ、桜門と話した時に大声で怒鳴ったりしないはずだ。
きっと、家族や友達、恋人のような存在なのだろう。
そんなドールを助けたいと自分の命さえも渡すつもりなのだろう。
それは、きっと文月の祖母と同じような考えなのだろう。
そう考えると、胸がキリキリと痛む。
それで、ツボミは白銀がいない世界で目を覚まして、どんな気持ちになるだろうか。
病気で余命は残り僅かだったといしても、自分のために命をかけて守ろうとしてくれた、自分を作った人間が死んでしまったと知ったら。
悲しむのだろうか。