身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
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「あぁ………ここは、病院か……」
白銀はゆっくりと目を開けた。視界がぼやけてうまく見えないが、白い天井と微かに聞こえる機械音が病院だと教えてくれる。手で目をこすりたかったが、体が動かせない。いや、動かすのも億劫なぐらいに疲労感と痛みを感じるのだ。
朦朧とした頭で、記憶をさかのぼる。
あぁ、そうだ。ここに来る前に、桜門に会いに行ったのだ。きっと最後になる。そんな予感がしていた。が、やはり勘というものは当たるものだ。もう自分の力であの桜並木を訪れる事は出来ないだろう。
「ツボミ、ごめんな。最後におまえの声を聞きたかった。それに、桜の木を見たかったな」
その言葉が上手く話せているかもわからない。だが、独り言なのだから、それもどうでもいいことだ。
痛みもあまり感じなくなってきた。少し息苦しいだけで、もう自分の体は動かせないのがよくわかる。
もう死ぬんだ。
ついにその時が来てしまった。
ツボミは助けられそうにない。それがとても悔しいのだ。
もしかしたら、自分の弟子である男がいつか直してくれるかもしれない。けれど、その時には白銀はとっくに死んだ後だ。「マスター」とツボミが呼ぶ声を聞くことも出来ないし、白銀が返事をしてやる事などできるはずがないのだ。
ツボミは悲しむだろう。
そう思うと、切なさで涙があふれる。
自分ではもう拭えない。ツボミが「マスター、泣かないで」と、慰めてくれる事もない。
大切な自分の子どもであり、友達であり、同僚、家族。そして、愛しい相手。