身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
ツボミはゆっくりと手を上げて、白銀の目元に触れた。少し温かいが、肌より弾力があり、涙をはじく偽りの指先。ツボミが涙を拭ってくれたのだ。
「ありがとう。でも、涙を流す時は何も悲しい時だけではない。嬉しい時、感動した時も涙が出るのだ」
「では、マスターが泣いているのは、どんな理由ですか?」
「君と話せるのが嬉しいからだよ」
「………私と話すのが?」
「あぁ………」
「それは、私と同じですね。私もずっと話したかった。嬉しいです」
「そうか。……同じ、か」
嬉しい時の表情は笑顔。満面の笑み。目を細めて、広角を上げる。そうシステムに落としたのは自分だ。それにならって、ツボミが行っているだけ。
そんな事はわかっている。
けれど、ツボミは嬉しいと言ったのはなぜなのだろうか。マスターが喜んでいる時は共に喜んでいるだけなのか。
白銀は、それでもツボミが動き、自分の言葉を交わす時間がとても幸せだった。
長年の夢が叶い、悲願を達成した瞬間。
白銀は、ツボミという存在が何よりも大切になったのだった。