身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~



 「ユリが完成したら、ツボミは用済みになってしまうのでしょうか?」
 「え……」
 「先日、本を読んでいたら人間は新しい物を買うと、どんなに愛用していた物でもそれを忘れてしまい、新しい物に夢中になる、と書かれていました。幼い人間が新しいおもちゃに夢中になって古くなったものには見向きもしなくなるように、大人にも同じ状態があると。そうなると、私は必要なくなってしまいます。そうなると、私は捨てられるのでしょうか?そう考えると、捨てられるのは仕方がないと思うのですが、白銀と話せなくなるのは、苦しいと思うのです」
 

 涙など出るはずもないのに、ツボミが泣きそうな表情になるのを見て、白銀は思わず彼女の頭を撫でていた。そして、必死に泣きそうになるのを堪えて笑みを浮かべた。きっと不格好な笑顔だろうが、仕方がない。
 感動と切なさの感情が一気に込み上げてきたのだ。

 ツボミが自分で気持ちを考え、自分がどうしたいのかを言えるようになった。
 それは人間第一のドールの世界では禁忌なのかもしれない。けれど、ツボミには気持ちを伝えるように言ってきた。それが、今の言葉で成果が出たとわかった。
 そして、ツボミは白銀と共に居る時間を何よりも大切にしてくれている。それがとても嬉しかったのだ。


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