身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~





 文月は、病室の端に移動し、白銀を見つめながら涙を流し続けた。
 そして、最新のドールであるスミレの手を文月は握りしめていた。冷たい手だ。

 桜門も文月の傍に腕を組んだ状態で立っている。もちろん、視線の先にはスミレがいる。白銀が自分の命と記憶を身代わりに選んだのはそのスミレというドールだった。そのドールは、白銀の膨大なドールの知識をデータとして取り込んでしまったため、うまく起動出来ないのだ。
 しかし、白銀が身代わりの力でその命を吹き込んだのだ。
 そうなれば、スミレは動き出すはずだ。けれど、白銀が亡くなってからもう10分以上時間が過ぎてしまった。
 けれど、スミレは動かない。


 失敗したのだろうか。

 やはり、人間の命で人形は動かないのだろうか。そうなれば、ツボミは誰が直すというのだろう。白銀の願いは叶わず、ツボミはずっと眠り続ける。白銀が死んでしまった事を知ることもなく。

 文月はまた大粒の涙がこぼれてきそうになり、目をゴシゴシと手でこすった。
 そんな文月の様子を見たからだろう。桜門は「いくぞ」と言って、ふわりと体を浮かせた。彼はもう諦めてしまったのだ。この身代わり依頼が失敗してしまったのだ、と。

 文月はまだ諦めたくなかった。
 けれど、握りしめているスミレの手が温かくなる事も動く事もない。

 もう終わりなのか。



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