身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
そう思って、スミレを見つめながら、よろよろと立ち上がろうとした。その時だった。
文月はスミレの首筋に、人間にはないものを見つけた。よくみると、PCを起動する時のボタンとよく似たものがあった。それを見て、ハッとした。
「す、すみません!」
文月は、咄嗟に病室にいた1人の男性社員に声を掛けた。まだ目も鼻も赤く、白銀が亡くなって放心状態になっていたが、文月が声を掛けると優しく「どうしましたか?」と返事をしてくれた。
「このドール、スミレの起動ボタンって首筋のものですか?」
「えぇ、そうですけど」
「今、起動させてみても大丈夫ですか?」
「え?ですが、このスミレはエラー続きで起動した事はないんですよ。動きませんよ」
「大丈夫です。………今は、動くと思います」
文月は、そう強く断言した。
が、その社員は不思議そうにして、全く信じていない様子だった。が、起動ボタンを押す事には反対せずに仕方がない、という雰囲気のまま「わかりました」と、疑いの表情のままスミレに近づき、起動ボタンを押した。
文月は祈る思いで、そのスミレの事を見つめた。お願い、動いて、と強く強く心の中で祈る。
PCを起動した時と同じようなウィーーーンという機会音が響く。
それを聞いて、他の社員も集まってきた。そして、桜門も宙に浮いたままこちらの様子を見つめていた。
「あ、目が開いたっ……」
「ここまではいつもうまくいくのですが。………この後です。スミレがしゃべらないのです」
「…………」
スミレの名前通り、そのドールの瞳は紫色の宝石のように輝いていた。けれど、無表情のまま一点を見つめたままだ。皆が諦めかけた。
文月以外は。