身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
「帰る」
「え、ちょっと……」
低音の小さな呟きの後、いつものように桜の花びらが桜門と文月の周りで踊る。
文月が病室から突然消えた事に、周りの人達は全く気付かなかった。
文月がいない事に気付いたのは、それからしばらくたった後。
社員たちは、不思議そうにその場をキョロキョロと見たが、「帰ってしまったのだろう」と結論付けて、探そうともしなかった。
転移された先はもちろん、いつもの桜並木。
桜門のすぐ隣にいた文月は、桜を見ることもなく桜門の横顔を見つめている。
彼はいつもの桜並木を、何故か驚いた表情で見ていた。
その後に、フッと小さく息を吐いた。
「………俺はもう疲れた」
「桜門さん?」
桜門はそういうと、その場にドカッと座った。あぐらをかき、今度は大きくため息をついた。
文月は彼の顔ののぞき込むと、その表情は子どもが泣き出す直前。歪み、他者の心を切なくさせるものだった。
すると、彼は突然「あああーーーーー!」と大声を出し、そのままゴロンッと、その場に仰向けになった。腕で目元を隠し、そして沈黙。
文月はどうしていいのかわからずに、彼の傍にゆっくりと膝をつけた。
どうして、彼が悲しんでいるのか、凹んでしまってのか、文月はわからない。
けれど、1つだけ気になっている事があった。