身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
「白銀さんの依頼をうけるのを迷っていた理由。それが原因ですか?」
「…………あぁ、そうだ」
「今回の取引の依頼は、何故特別だったのですか?」
「100回」
「え?」
桜門は、そういうと目元を隠していた腕をゆっくりと離し、起き上がった。
「今回で、身代わり依頼が100回目だったんだ」
「そんなに………」
身代わり依頼の助手をしてわかった事。
それは依頼を受ける度に心が揺すぶられ、胸が苦しくなる。
人の病気やケガなどに人が悪とするものを身代わりに受ける。その苦しみ、悲しむ人の姿を、桜門は1人で100回も見てきた。
必ず依頼を受けるわけではないのだ、実際はそれ以上の依頼があったはずだ。
文月はその事実に息を飲み、胸が締め付けられる思いだった。
「………100回の身代わりが行われると、どうなるんですか?」
「………俺が桜門でなくなる、そう思ってた。けど、俺は桜門のままで消えず、そしてこの桜並木も変わらずにある………身代わり依頼は成功したはずなのに、何も変わらない。………俺が夢のために勝手に描いた妄想に過ぎないんだよ」
「き、消えてしまうって……どういう……」
「文月、取引の内容を教えよう」
訳がわからないまま話が進む。
全て桜門のペースだ。
けれど、彼の言葉でわかった事がある。
それは、彼の望みが「消える」という事。それに、文月は焦った。
彼が消えてしまう。
それを叶えるために、身代わりをしていた、という事だ。
それを理解し、文月の鼓動が早くなる。全身にどくどくとすごいスピードで血液がまわっていくのを実感出来るような感覚におちいる。
そして、真実を知る恐怖から何も声が出なくなってしまう。
そんな文月の気持ちを見越してなのか、桜門は起き上がりゆっくりと文月の頬に手を添えた。
いつもならば安心する冷たい感触。それなのに、今は妙に心配してしまうだけ。