身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~



 「文月には俺の代わりに身代わり依頼を受けてほしい」
 「わ、私が?で、でも、桜門さんは?」
 「私はもう200年も前からやっているんだ。普通に死にたいんだ。…………疲れてしまった」
 「ま、待ってください!桜門さんがいなくなるなんて、そんなの。それに身代わりの仕事なんて私には出来ませんっ!!」
 「文月。君は、今仕事をしていないね」
 「っ、どうしてそれを」


 誰にも話していなかった事。
 文月の秘密。
 それは、最近になり仕事を辞めた事だった。どうして、それを桜門が知っているのか。
 文月はブルッと体を震わせた。

 それを感じてか、桜門は文月に向けていた手を話、ゆっくりと腕を組む。


 「毎日のようにここに訪れていたのだ。普通に仕事をしていたらまず無理なのだろう。それに両親への仕送りも苦しくなった。決定的だったのは、文月の部屋に行った時に退職手続きの書類を見かけた」
 「………そう、だったのですか」


 確かに、文月は祖母の命日の前に仕事を辞めていた。
 仕事はいつもうまくいかない。
 それは当たり前の事だった。病気でほとんど学校に行っておらず、勉強もあまり出来なかった。けれど、それは必至に勉強をし直したから大丈夫だったかもしれない。けれど、一番大きな問題があった。

 それは、人間関係だった。

 子どもの頃から友達もいなかった文月は、どのように接していいのかわからなかった。
 優しくすれば、頼られすぎて仕事を押し付けられ、自分がパンクしてしまう。そして、失敗をしてしまい、「使えない人間」の烙印を押され「ただの偽善者」と言われてしまう。
 そして、なるべく人と関わらないようにすれば「根暗な女」や「つまらない人」と罵られる。
 人とどれくらい近くまで行き、離れればいいのか。距離感がわからなかったのだ。

 そして、仕事を次々と変えていき、今回もうまくいかなかった。


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