身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
それが悪いことだとはわかっている。
大人があんなにも怒るのだから、人の物を盗るのは悪なのだ。けれど、それなら空腹をどう満たせばいいのだろうか。
それが海里にはわからなかった。
「そう。………海里は頑張って生きているのね」
「頑張ってる………?俺が?」
「えぇ。とても頑張ってる。ただ、やり方が間違っているのかも。仕事を貰ってみたら?何でもいいの。皿洗いでも掃除でも、物を届けるでも。………そうね、お寺様とかに聞いてみてもいいかもしれないわ」
自分がやっている事は「頑張っている」。そんな風に言ってくれたのは初芽だけだ。海里はそれだけで心が温かくなった。少しだけ誇らしい気分になる。
それに、初芽はただダメというだけの大人とは違った。何が間違っていて、それを止めるにはどうすればいいのかを教えてくれた。
それはとてもありがたいことだった。
勉強はもちろん、生きてゆく術を教えてくれる大人は海里の周りにはいないのだから。
けれど、それでも不安は拭えなかった。
普通の子どもならば、優しくしてくれる大人はいたはずだ。だが、海里は普通ではないのだから
「俺はいいよ……」
「どうしたの?働きたくない?」
「違うっ!…………そうじゃなくて………」