身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
「おかゆい所はございませんかー?」
「…………」
「あれ?お湯、少し冷たくなってしまったかしら?」
「………いや、それは問題ないけど。何これ……」
あっという間に、初芽のペースにはまってしまっていた海里は、腑抜けた声を上げてしまった。
約束通りに彼女の住む屋敷に忍び込んだ海里だが、部屋で待っていた初芽はいつもより機嫌がよい様子だった。だが、いつもと違うのは、袂を紐で縛って固定していたのだ。たすきがけをして待っていた彼女の近くには大きな桶が準備されており、そこから湯気がたっていた。
それからは、あっという間に彼女に手を引かれ、桶の前に座るように言われ、あれよあれよという間に、海里の髪は温かいお湯で濡れていった。
「せっかく綺麗な髪なんでもの。私が洗いたくなったの」
「……強引だな」
「ふふふ。今頃気づいた?じゃあ、泡を流して」
「この匂いはなんだ?それに自分で洗っている時はそんな泡でなかった」
「石鹸よ。体や髪を綺麗にするものなの」
初芽が教えてくれた「石鹸」というものの香りは、彼女からよく香ってくるものだった。