身代わり依頼は死人 桜門へ ~死人の終わらない恋~
あんな酷い咳がずっと続いているのか、と考えると、海里は胸がズキッと痛んだ。
少し前に、「子どもの頃からずっとなの」と困ったように苦笑する初芽の顔を思い浮かべる。ずっとあの屋敷で寝て過ごしていた。それは、どんなに苦しいのだろうか。
立派な家をもつ両親の元に生まれた子ども、例外なく幸せなのだと思い込んでいた。
けれど、それは違う。そんな事を学んだのだ。
海里は懐から金が入った布袋を取り出す。日々の食事のみにしか金を使わないため、貯まってきた。と、言ってもいつ仕事が貰えなくなるかわからないので、大切にしなければいけない。
フッと町中を見つめると、あるものが目に入った。少し考えた後、海里はすぐに店の前に居た男に声を掛けた。
「これ、いくら?」
「………金はあるのか?」
「ある」
そういうと、店主は低い声で海里に値段を告げた。それは1日働いて貰えるお金と同じぐらいだったが、海里はかまわず、それ買った。
「………あいつ、喜んでくれるかな。元気になるかな………」